デビルウィスパー136
暗い……寒い……春の夜とは思えない……あたしは自分の身体を抱き締めながら言い様の無い寒さに凍える。
でも、こんなに寒いのはきっと寒さのせいだけじゃない。
掌を見る。衣服を見る。玄関前のガラスに映った顔を見る、見る、見る……
どこを見れば、三桜弥生という人間性が残っているんだろう? こんな血だらけのバケモノに、温かさなんてある訳が無い……!
でも、暗い、寒い。温もりが、暖かさが欲しい……それが死と引き換えでも。
カチカチと、歯とはもう言えない牙を鳴らし、あたしは待っていた。彼が来るのを、自身の死と共に、月を見上げながら。
見上げていた満月が雲に隠れる。薄っすらと暗くなったあたしの視界に、封鎖されている校門を誰かが飛び越えてきたのが見えた。
羽織ったコートを投げ捨て、ゆっくり、ゆっくりと歩いてくる。
その二つ名が示す、死神のように。
「待たせたな、三桜」
「……来てくれたんだ」
私は腰掛けていた玄関の階段から立ち上がり、その返答に応じた。
「……来てくれないと思ってた」
「呼ばれたのは、俺だからな」
その表情はいつもと同じで、微動だにしない。
「お前は、人を殺さずには生きていけない」
左手にした手袋を淡々と外し、捨てる。
右手にした手袋を淡々と外し、捨てる。
「結論から言おう」
左側の顔に、赤黒い螺旋模様が浮かび……左眼の色素が反転する。
「お前は、俺の手で殺す」
……言い渡されたのは、死刑宣告。
あたしが欲しかったのは、ほんの少しの暖かさ。
冷たい引導じゃない……!
それが貰えれば、殺されてもいいと思っていた。
もう、寒くは、無い。
「クスクス……できるものなら、やってみなさいよ!」
殺意に凍った心は、もう暖かさなんて必要無い!
叫びと共にあたしは大地を蹴った。