デビルウィスパー137
風を切るような速度で肉薄する吸血鬼に、幸一は横に跳び、距離を取ろうとする。
「どこを見ているの?」
嘲るような声が背後から聞こえた。幸一は咄嗟に上体を沈め、背の敵に足払いを掛けるがあっさりかわされ、逆に宙に舞っている不自然な姿勢から蹴りを放ってくる。とんでもない風圧が幸一の耳元を掠めていく。
(ジン! 力を全解放しろ!)
加減をして戦える相手ではないのはわかっている。
赤黒い螺旋模様が幸一の全身を埋め、右眼の色素も反転し、左手の甲に刻まれた刻印が一際強く光る。大きく呼吸し、幸一はその刻印を揮った。
喜々として幸一に襲い来る吸血鬼は……しかし、その表情を激変させた。口をパクパクとさせているが、声は出ない。白い顔に、いくつもの血管が浮き出ている。
通常の、力の半分しか解放されていない状態では、それ自体が明確な『意思』を持った者しか消去できない。が、力を全て解放した場合は、物質の消去も可能。
そう、幸一はたった今、辺りに漂う酸素を神の『意思』から断絶させることで、文字通り消し去ったのだ。あらかじめ肺に酸素を蓄えた幸一とは違い、対応出来る訳が無い。
それでも、吸血鬼は力の力場を発生させ、牽制してきた。
『ジン!』名を呼ぶと共に、刻印でその衝撃を切り裂き、無効化する。力を解放したオレに破壊できぬものはこの世に一つとして無い。にも関わらず、吸血鬼はたて続けに攻撃を放ってきた。質より量で押すつもりか。これでは、接近が難しい。
……風に流され、周囲に酸素が運ばれてくる。
幸一はただでさえ『物質』に込められた意思を破壊し消耗している。長期戦はマズイ。だが、ここで戦っても今のような不意打ちはもうきかないだろう。
……身体能力は向こうが上でも、戦闘経験はこちらに分がある。
幸一は半壊した校舎の中に身を滑らせ、闇の中に吸血鬼を誘い出す。