出乗るウィスパー128
『渇き』すら越えれば、吸血鬼は人間の血液を、己の意思で適量のみを摂取できるようになるが、この時期は別。いくら吸っても『渇き』は解消されない。かといって放置すれば、この吸血鬼が言っているように、見えてくるのは死の一文字。
「それとも……九条君は、あたしに死ねって言うの?」
悲痛な色を帯びた吸血鬼の表情は、しかしすぐに残虐なものにかわる。
「九条君だって人のこと言えないじゃない。あたしよりたくさん殺しておいて」
反応は無いが、その言葉は、確かに幸一の胸を抉っただろう。
「……とりあえずちょっと待ってて。話をするにしても、先にこの人の血を吸わないと」
「逃げ、て……! 今の幸一じゃ、かて、ない……!」
牙を剥き出しにした顔を向け直し、吸血鬼はその手刀で女の首を落とそうとする。
「待て、三桜ぁ!」
オレには子守唄のように聞こえるが、人間なら魂を搾り出すかのような悲痛な叫びとでも形容するのかな? 接敵すると同時に幸一は吸血鬼の腹部に蹴りを繰り出している。
甘い。仕留めるのなら『魔封じの刻印』を用いるしかない。そんな攻撃ではダメージになるまい。しかし、どっちでも同じだったな。当らなければどちらも意味が無い。
「そんなに慌てないでよ、ちゃんと相手するから」
吸血鬼は羽毛の様な身軽さで、幸一の足に乗っていた。その体勢から顎を爪先で蹴り飛ばし、さらに胸元に何らかの力を放つ。幸一の胸元が不気味な音をたて陥没する。