デビルウィスパー129
吹っ飛ばされる幸一だが、今の攻撃によって吸血鬼の腕は女を解放していた。女はその一瞬の隙をつき、自らの胴を貫く槍を強引に引き抜いた勢いを駆って刃を返す。が、その不意打ちは女の努力も虚しく、吸血鬼の頬を浅く切り裂くくだけに終わった。
「……まだそんな元気があったんだ」
頬の血を手の甲で拭うと、傷はすでに癒えている。
マズイな……幸一が殺されれば、解放はされるが同時に深手を負う。しかし……この吸血鬼は深手を負った状態で、敵に回したくはない相手……しかたない。
(女。オレが一瞬だけ、奴の気を引いてやる。幸一を連れて全力で逃げろ)
オレは吸血鬼の背後に思念体を形成した。濃密な殺気と共に。
ついさっきまで気配すら感知できなかった吸血鬼が、振り向きざまに手刀を首筋に一閃。
もちろん、思念体のオレにこの攻撃はかわせん。ダンプカーがぶち当てられたのかと錯覚するような重い衝撃によって、それこそあっという間に思念体は掻き消された。
だが、その一瞬で充分。黒翼を広げた女はピクリとも動かない幸一を拾い上げるとそのまま上昇し、月の彼方に消えて行く。
深紅に染まった吸血鬼は、いつまでも名残惜しそうにオレ達を見上げていた。