破れたカーテン

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デビルウィスパー130

デビルウィスパー130

これだけ離れれば大丈夫だろう。女はどこぞの工場の敷地内に降り立ち……腹を抑えつつ、力尽きたように崩れ落ちた。広げた翼は形を保てずに消え、地面に鮮血が広がる。

 ククク……結果オーライだが、こういうのも時には良いだろう。幸一の顎は、恐らく砕けている。放っておけば死ぬ……しかも近くに敵はいない。深手を負って解放された所で何の憂いも無い。唯一側にいる女もすでに瀕死。

 オレは自身が解放されるその瞬間を待ち侘び……

「すまんが、こんな所で死なれては困るのだよ」

オレは声に対し、すかさず思念体を透写し、相手の姿を確認した。これと言った特徴は無いサラリーマン……外見はな。そう、前回の異質な気配を放つ吸血鬼にそっくり……いや、全く同質なのだ、こいつの気配は。考えられることは……

「……貴様、人形師か?」

 オレは眼の前のそれを操っている本体目掛けて問う。しかし、それは返事をせずに幸一の元に歩み寄って来た。

「いい加減、その思念を引っ込めたらどうだ? 牽制にすらならんぞ?」

 ……オレは仕方なく、思念体を消すことにした。

(……幸一をどうするつもりだ?)

「さっきも言っただろう? 今、死なれては困るのだよ。彼はそこの天使の少女共々、貴重なサンプルだ。まだまだデータが欲しい」

どうやら、人道的見地とやらから治療するのではあるまい。もっとも、世間を騒がせた元凶の一人なのだから、そんな感情は無いだろうが。

人形は幸一の側に片膝を突き、瞳孔の開き具合や顎の損傷を確認し……幸一の顔の手前で、人差し指を用いてルーンを描き出した。解読は出来んが、回復系統のものだろう。その証拠に、徐々に幸一の顔色が良くなってくる。砕けた顎も骨が繋がり出す。

(……運のいい奴だな)

「そうでもないさ。私は市内の至る所にこのような人形を置いている。このように何かあった場合に備えて、な」

 オレが言った『運のいい奴』。普通なら幸一がその相手だろうと考えるが……やはりコイツはオレに似通っているな。全ての事柄に対し、自分を中心に考える奴だ。

 人形は続けて女にも同様の処置を施し……

「本来なら二人共々、工房まで運んで解体したいが……ここには物騒な奴がいるからな」

 己の目的のために、あえて泳がせる、か。

 人形が幸一に……オレか? 顔を向け、これまではとは別種のルーンを描き出す。

「私のことを覚えられると、後々、何かと厄介なんでな」

 忘却のルーンか! 

意識が……混濁し始めた……クソ……!